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  • Ryo Hara

JAWS FESTA Tohoku 2014講演録「ITコミュニティ試論:私たちは“つながり”で何を目指すべきか?」


(2014年9月6日/東北電子専門学校(仙台市)で開催された「JAWS FESTA Touhoku 2014」での講演録です) 1. ITコミュニティという場が持つ力

 ITコミュニティという場が持つ力について、3つの観点でお話をしたいと思います。

(1)ITコミュニティは、かけがえのない仲間と出会える場所である

 ITコミュニティは、仲間づくりの場です。思いをともにできる仲間であり、技術をともに高めあえる仲間です。思いも技術も、ひとりより、みんなと磨くほうが輝きます。

 しかし、特に東北などでコミュニティを展開する際に、懸念される声をよく耳にします。マンネリ化による停滞です。コミュニティは、同じメンバーだけで活動を続けて行くと、メンバー同士の思いが同質化され、同じ話の繰り返しになる危険性があります。技術力も、同じメンバーだけで一定の高みに達したときに、そこから先のレベルアップは課題となるのではないでしょうか。

 活動をはじめて2,3年もすると、最初のモチベーションの高さを維持できなくなり、やがて停滞します。では、どうするか。同質化した仲間と異なる人を外から入れて刺激を受けましょう。異質・異能な人たちです。IT勉強会なら、ITエンジニアではない人を入れてみる。地域で活動しているなら、地域外の人を入れてみる。

 異質・異能を取り込みながら、思いや技術を高める仲間が増えていく。これが、ITコミュニティが持つ、第一の力です。

(2)ITコミュニティは、世界に存在するあらゆる壁を取り払う

▼テクノロジーが壁をやぶる

 テクノロジーは、国境をやぶり、思いをつなぎます。グローバルなサービスを見ればわかるように、ソーシャルメディアのようなWEBサービスやiPhoneなどのデバイスは、それらをよいものだと思う人たちにどんどん受け入れられ、簡単に国境を越えています。企業の戦略、戦術などの成果ではありますが、やはりプロダクトの持つ魅力が、世界の人々の心を捉えた結果でしょう。

同様に、技術を持つ人は、その技術で、さまざまな壁を乗り越え、壁の向こうにいるあの人と手をつなぐことができます。ここで「3つの超える」についてお話をします。

▼ITで「分野」を超えよう

 IT以外の分野へ出ていきましょう。たとえば竹下さんであれば、IT技術を使って「介護」の分野へ突っ込んでいく。介護×ITです。Fandroidの仲間でも、アンデックスなら水産×IT、アイティコワークなら農業×ITです。そうした産業分野のほか「地域」や身近に困っている「人」でもよいです。

 ITは、何かと何かをかけあわせるときの重要なパーツです。そのスキルをもつITエンジニアのみなさんは、どんな分野にでも突っ込んでいくことができます。

 分野を超えて、手をつなぎましょう。

▼ITで「地域」を超えよう

 ほかの地域にも乗り込みましょう。自分たちの発想、考えを切り替えるヒントが、そこにあります。複数の地域が相互に行き来をすることで、スキルや見識があがっていく。合同で勉強会などをやってもよいでしょう。

 「自分たちの地域は新しいことやっても動かない」という、どこの地域にもある嘆きも、別な土地を見ると、実は程度に差があり、自分たちの地域がまったく動かせない状況ではないことに気づくケースもありでしょう。

 なぜここで「地域」を挙げたのか、もう少し踏み込みます。ITエンジニアは、モノをつくることで新しい価値を世の中に提供することができます。価値を体験と置き換えてもよいでしょう。新しい価値や体験を出す技術を持った人が、地域やだれかのためにアウトプットを出していく。地域で活動することは、そうした価値や体験を地域に生み出していくことが、醍醐味のひとつです。ITコミュニティ同士で、そのノウハウや事例を、地域を越えて共有することができます。

 地域を超えて、手をつなぎましょう。

▼ITで「世代」を超えよう

 3つ目は「世代」です。急速なIT技術の発展で、ITに対するイメージや使い方は、世代によってバラバラです。若い世代を見てみましょう。イトナブのように高校生、中学生、小学生がアプリを作り、それをサポートしている大人たちがいます。私は今年で40になりましたが、いまの中高生、小学生たちは、私とまったく異なる視点を持ち、異なる時代を生きる人たちです。

 私たちの世代は、自分たちの持てる限りのリソースを使って、次の世代を生きる人たちの成長に貢献できることを、全力で進めて行きましょう。それができるのも、ITコミュニティがもつ力です。

 逆にシニア世代はどうでしょう。ITなんてわからない。これもまた、私世代とは異なるIT観を持つ人たちです。彼らの人生をサポートできるITがあるとしたら、それは何でしょう。これも、コミュニティの力で解決しうるものの一つです。

 世代を超えて、手をつなぎましょう。

▼世の中に、あの人に、新しい価値を届けよう

 先ほど、新しい価値、体験という話題に触れました。ITエンジニアの方が、何を作るとき、それはだれの何のためでしょうか?相手がいるとしたら、その相手に新しい価値を届けるのが、みなさんがアウトプットするプロダクトの持つ力です。

 新しい価値とは、新しい体験です。その体験で、相手の考え、気持ち、行動が変わる。たとえば、私のように運動をしない人間が、ランニングアプリで走るのが楽しくなり、ジョギングの習慣がついたとします。それができたら、そのランニングアプリは、私に対して新たな価値の提供したことになります。

 価値を提供する相手は、広い世の中かもしれません。どこかの地域かもしれません。何かの分野かもしれません。あるいは、あなたが大切に思っている特定のあの人かもしれません。いずれにせよ、それらの相手に何らかの変化をもたらしてはじめて、新しい価値を提供したことになります。

 新しい価値とは、世の中を変えること。あの人の気持ちを変えること。その相手が、新しい世界を拓く。その相手が、知らなかった世界を知り、その世界に足を踏み入れることを指します。

 しかし、変えることには怖さが伴います。面倒と感じることもあります。先の例を繰り返せば、私にとってジョギングほど面倒なものはありません。現状のままが一番楽で、それ以外には苦痛が伴うことを、私たちは半ば先験的に知り得てしまっています。

 その怖さを圧倒的に凌駕するワクワクを提供できるのが、プロダクトの力であり、ITの力ではないでしょうか。形で見える、手に触れることができるものを、ITエンジニアは新しい価値を届けたい相手に示すことができます。

 さまざまなテクノロジーが、努力次第でだれにも扱えるようになり、私たちは豊かなアウトプットを自ら生み出すことができます。それを示すために、アイデアソンでもハッカソンでも、どんどんやりましょう。

 ITコミュニティで、みんなでやりましょう。そして、あの人に届けたい思いを乗せたプロダクトを、どんどん示そう。

(3)ITコミュニティは、新たなパブリックを提示できる

▼公って何だろう?

 ITコミュニティの場がもつ力。少し抽象的な力になりますが、ここで紹介したい最後のひとつは「新たなパブリック」の形成です。パブリックとは、近い日本語に置き換えれば「公(おおやけ)」です。

 「公」とは何でしょう。公共という言葉から連想してみましょう。公共事業や公共交通といった表現でよく耳にします。では、その担い手はだれでしょう。多くの人たちは、役所だと答えるかもしれません。しかし、それは誤った考えであり、まったく違います。

 ここから先は、私の持論になります。「公」とは「場」です。セクターを表す言葉ではありません。公という場には、たとえば、その地域、社会の課題などがその俎上に乗り、それを解決するための有志として、「官」が入り、「市民」が入り、「企業」が入り、「ITエンジニア」が入ります。

▼Civic Techの必然性

 「CivicTech」という言葉をよく耳にするようになりました。社会課題をITエンジニアが持つテクノロジーで解決しようという考え方です。社会課題の解決はこれまではお役所の仕事とされていました。しかし、行政は私たち市民の前で、相対的に劣化をしています。

 たとえば、いまこの部屋にいる青森県庁の杉山さん。彼は、IT産業振興の担当者ですが、ITの専門性はまったくありません。ITエンジニアのみなさんのほうが、はるかに専門性を持っています。同じことが、たとえば竹下さんが取り組んでいる介護の分野にも言えるでしょう。介護の事情をよく知っているのは、自治体の介護事業の担当者ではなく、患者を身近に置き、お世話の経験や知識を必死に積んだご家族かもしれません。

 行政が、すべての分野で「公」を独占することは、もはやできない時代です。そうした中で、豊かなアプトプットを生み出しするITエンジニアは、公の場を担いうる重要なセクターです。ビジネスに活かすケースもあれば、社会の役に立ちたい一心で場に関わる人もいるでしょう。後者はまさに、これまでにいなかった「技術をもった市民セクター」の登場です。

 行政の劣化と技術の進歩、そして社会課題の先鋭化という3つの条件を前に、Civic Techの登場は、必然であったと言えます。

こ うした場にコミットする、あるいは自分たちで場を興していけるのがITコミュニティです。CODE for JAPANやCode for Xというのは、そうして生まれたものと見てもよいでしょう。Fandroidの仲間にも、CODE for Shiogamaの小泉さん、CODE for Ikomaの佐藤さん、CODE for GIFUの国枝氏など、各地にCODE for Xのリーダーたちがいます。

 ITエンジニアが集まり、自分たちで周りを巻き込み、新たなパブリックを生んで行く。これもまた、ITコミュニティの場がもつ力です。

2. 東北で価値を出し合おう

 東北に新しいITコミュニティが、たくさん生まれています。今この部屋にいるITコミュニティのみなさん。仙台から、石巻から、会津から、青森から、みんなで「あの人」が喜ぶための新しい価値をどんどん出しましょう。見せ合いましょう。競い合いましょう。お互いの場も、どんどん行き来しましょう。石巻から会津に行きましょう。青森にも行きましょう。

 東北全体で価値を出し合うことで、東北を盛り上げていきましょう。それができる時代になりました。それができる人が集まりました。その場が、ITコミュニティです。みんなで、一緒にやっていきましょう。

3. 最後に

 今日、このイベントを作り出したJAWS-UGのスタッフのみなさんも、参加者のみなさんに対して、こうした場の提供を通じて、新しい価値を提供しています。彼らが望むのは「面白い話が聞けてよかった」ではなく、話を聞いて刺激を受けたみなさんが、今日この日から何が変わることや、何を始めることではないでしょうか。

 もしそうであるならば、このイベントは、みなさんに向けて新しい価値を届けようという思いが乗った場です。このあとのセッションでひとつでもいいので、何かを感じ、今日から変わること、できることを、探してみてください。

 ありがとうございました。

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仙台にいるとき限定で「ひとり勉強会」なるものをはじめてみました。 〇〇勉強会みたいなのは、これまでセミナーやらワークショップやら、全国でもう数百本とあれこれ開催しまくってきて、ノウハウらしきものもいくつかは身についてきたように思う。 テーマの決め方、タイトルの作り方、場所や日程の確保、告知の展開の仕方、チラシや告知ページの制作、集客、関係者との各種調整、主催者や共催者にあわせた建付の仕方、当日運営

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