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Ryo Hara

ITベンチャー促進とICT利活用の狭間で(1)


自治体と仕事をしていると、地域でのITにはふたつの視点があることに気づきます。ひとつはIT産業の活性化、もうひとつはICT利活用の活性化です。

ITをめぐるふたつの視点

前者は産業振興の一環で、地域からITビジネスを創出しようという動きです。IT企業の設立、育成、誘致といったところです。

岐阜県は、大垣市内にIT産業の集積地「ソフトピアジャパン」を作り、現在では200近い企業と2000名を超える就業人口を同地に擁しています。福岡県や大阪市は、スタートアップ支援を熱心に行っていて、それぞれの地域からユニークなITベンチャーが、活躍の場を拡げています。

後者は、地域の人々にICTを活用してもらおうという動きで、地域情報化などとも言われます。地場の産業にICTを取り入れたり、社会課題の解決にICTを使っていこうという取り組みです。

総務省は「地域情報化大賞」の表彰を行っており、前年度は、地域活性化部門に「日本の田舎をステキに変える『サテライトオフィスプロジェクト』等(NPO法人 グリーンバレー/徳島県神山町」)、地域サービス創生部門に「ICTを用いた広島県呉市における『データヘルス』の取り組み支援 (株式会社データホライゾン/広島県広島市)」が選ばれています。

それぞれ国や自治体が、事業として全国各地で取り組んでいます。行政が手がけること自体への是非もあるとは思いますが、ここではITベンチャーの創出とICT利活用のギャップについて、話をしてみたいと思います。

ITとICTの表記のゆれ

「ITビジネス」と「ICT利活用」。ITなのかICTなのか。まず、ITという言葉は、日本の場合、2000年頃に「IT革命」という言葉が広がったことで市民権を得たと言ってよいでしょう。IT企業、ITベンチャーなど、ビジネス領域では「IT」という言葉がそのまま定着していると思います。

一方、「ICT」という言葉は、IT(Information Technology)の間に、CommunicationのCが入ったもので、情報技術に通信の分野を含めたものとされ、総務省が用いる用語でもあります。それに対して、経産省は「IT」という言葉を用います。

主に利活用を推進する総務省がICTで、産業育成を担う経産省がITというすみ分けですが、最近は、総務省がベンチャー育成を掲げて「ICTベンチャー」と言ってみたり、経産省がIT導入による民間企業のビジネス革新を訴えて「IT利活用」と言ってみたり、垣根も用語も入り乱れています。

とある違和感

最近は、地域課題をITで解決し、あわよくばそれをビジネスとして展開しようという試みが、各地で検討されています。「○○×IT」というかけ算で、たとえば介護×IT、農業×IT、観光×IT、教育×IT……といったものです。介護も農業も観光も教育も、地域によっては、当該分野に従事する人のみならず、地域に暮らす人々全体の課題として認識されています。それらの課題を解決する手段として、ITで何か新しいサービスを生み出せないだろうか?という期待が「×IT」に込められています。

ITでサービスを創る側からすれば「ITビジネス」の創出であり、それを導入する側からすれば「ICT利活用」ということになります。 これまでは、東京などの大企業が便利なシステムやソフトウェアを作り、地域の事業者が買うという構図が一般的だったかもしれません。 もしこれを、地元のIT企業がサービスを生み出し、地元の利用者に届くという構図が成り立てば、ITの地産地消とも言えるでしょう。地元のIT企業が、そこから販路を全国や海外に広げ、ビジネスをスケールさせることができれば、支援者である自治体としては、キレイな展開事例になります。 しかし、なかなかそういうキレイな結びつきが生まれていないのが実情です。

そもそも、○○に当てはまる様々な分野で、ITに対する苦手意識があるように思います。それは容易に想像できることです。もう少し具体的に問題点を絞っていくと、ITでイメージできるものについて、IT業界の人とそれ以外の分野の人たちの間に、大きなギャップがあるという現実が見えてきます。

ITで連想できるものって?

IT業界に触れる機会がない人たちが、ITと言われて想像できるものは何でしょう?おそらく、パソコンのマシン、Microsoft OfficeのWordやExcel、ホームページ、メールやSNSといったところでしょうか。商売をしている人ならそこにECサイトが加わるかもしれません。 そもそも、IT業界で働いていると言っても、世間一般には「パソコンに詳しい人」くらいにしか認知されないでしょうし、クラウドという言葉も、IT以外の人たちからすれば、難解な専門用語です。スマホやそこで触れる音楽、ゲームなんかも、ITという言葉の外に置かれているかもしれません。

そうした狭いイメージとは裏腹に、ITとそれ以外のテクノロジーとの境界線は、どんどんあいまいになっています。ソフトウェアの人たちがチャレンジをはじめているハード開発であったり、ドローンやVRヘッドセットのような新しい体験を提供するユニークなデバイス、3Dプリンタやレーザーカッターのようなデジタルファブリケーションといったものも、ITの領域では話題になっていますが、世間の人々にITを連想させても、こうしたものは挙がってこないでしょう。

ITの魅力は届かない

なので、「○○×IT」というテーマを掲げても、○○な人たちは「ホームページを作って何かするんだろう」としか連想しようがない。それ以上は、何やら難解で、想像ができない。その結果、自分たちには関係がなさそうだと、シャットアウトしてしまう。ハッカソンでどんなに楽しいプロダクトを作っても、シビックテックの集いでどんなに華々しく社会の変化を謳っても、○○な人たちには、なかなか届きません。

大規模なビジネスの領域では、たとえば物流とIoTなどは動きを加速させていくかもしれませんが、経営主体が小規模事業者で占められている分野では、たとえば農家のIT化や介護事業者のITサービスの導入といった領域だと、理解が進むまでの道は長そうです。

○○な人たちとITを携えた人たちとの間で、対話とお互いの理解を進める取り組みは、いくつか事例がありますが、対話のチャンネルを開けずにいるケースのほうが、圧倒的に多いのではないでしょうか。

場づくりの努力は、まだまだ足りません。

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