ITベンチャー促進とICT利活用の狭間で(2)

November 18, 2015

 



「○○×IT」なんて発想はもう古いという指摘もいただく今日この頃ですが、○○な人たちに向けてICT利活用を訴える動きと、ITの人たちに向けてベンチャーやらスタートアップやらをけしかける動きは、まだまだ交わりにくい状況がありそうです。

 


スタートアップを支える華々しい取り組み

 

ITで新しい価値を生んでいる人々や、スタートアップを促進するの枠組みがどんどん組みあがっていく様子が視界に飛び込んでくるようになりました。国や自治体だけではなく、民間企業などが、スタートアップのためにお金やビジネスが回り続けるエコシステムづくりに乗り出しています。

 

民間でこうした流れを生んでいるのは、様々な業界の大企業です。従来の投資家やインキュベーターと呼ばれる起業支援を専門でサポートする人や組織以外に、アクセラレーターと呼ばれる存在が増えています。

 

アクセラレーターとは、数ヶ月の特訓を経てスタートアップが独り立ちできるように支援を行う人や組織です。ITに限らず、あらゆる分野の起業が対象になりますが、どの分野においても、ITで挑むにはよい環境です。

 


異分野の大手企業が支援を手掛ける

 

通信事業者であるKDDIの「KDDI ∞ Labo」、マスコミである朝日新聞社の「朝日新聞アクセラレータプログラム」、出版社である学習研究社の「学研アクセラレーター」、鉄道会社である東急電鉄の「東急アクセラレートプログラム」など、「○○×IT」の○○の側にあたるあらゆる分野で、業界トップクラスの大企業が仕掛けているのが特徴的です。

 

上記に例示した企業は、いずれも業界トップではなく、2位もしくはそれに次ぐシェアを占めている企業です。大企業でありながら、挑戦者として仕掛けていこうという雰囲気を感じます。

 

ここだけを見ると、「○○×IT」なんて十分取り組まれているじゃないかと感じるかもしれません。しかし、その一方で、そうした動きを知らない人たちとの意識の乖離も、どんどん広がっているようにも感じます。

 


現場はどうなのか

 

上記のような大企業のアクセラレーターが登場していない分野でも、ITを携えた人たちが、たとえば介護、一次産業など、あらゆる分野に飛び込んで、新しい挑戦をはじめようとしています。それぞれの分野が抱える課題をITで解決することを試み、継続・拡大させるためにビジネス化にも挑むプレーヤーたちの登場です。


上記のアクセラレーターの取り組みは、「○○×IT」の○○の側が、お金やノウハウなどあらゆる資源を持っていて、自らがIT側の支援者として振る舞います。そういう相手と組まずに、○○の領域に踏み込むのであれば、そのとき相手になるのは、地元の小規模な事業者になるでしょう。農業なら農家、介護ならケアホーム、小売りなら商店街などです。
 

それら分野の現場には、もともとその業界で一筋にやってきたプロフェッショナルたちがいます。彼らの中には、(そして恐らく、アクセラレーターを自任する大企業の本業の現場においても)、「ITは難しい」「ITは特定の人だけが操る特殊なもの」だとして、遠ざけたままにしている人たちも多いはずです。

 

IT化=表層的な利便化とのみ捉え、そこに本質はないとして目をそらしている。前回の記事で指摘したように、IT化=ホームページを作ることだと思っている現場も多いでしょう。

 


テクノロジーは、古い社会にお構いなく世界を変える

 

しかし、そんなことにお構いなしに、ITは、従来の現場のプロたちが自分たちだけの専門だと信じていた領域に、どんどん踏み込んできます。ITは、単なる道具に留まらず、人のつながり方やお金の流れも作り変えていきます。SNS然り、クラウドファンディング然り、シェアリングエコノミー然り。

 

技術が社会に浸透しはじめるとき、人やお金の流れが変わり、社会のルールにも変更が求められ、その技術を味方につけた人が、世界の主導権を握ります。

 

これはITに限った話ではありません。

 

20世紀に世界を変えた技術のひとつとして、自動車を想起したいと思います。

 

 

暮らしやビジネスを変えたテクノロジー

 

蒸気機関を持つ自動車が発明されたのが18世紀後半のこと。その100年後にはガソリン自動車が登場します。さらに数十年を経て、1908年にフォード社が流れ作業による大量生産方式を確立させると、それまでは限られた富裕層や貴族しか持てなかったが自動車が、一般大衆にも普及をはじめ、モータリゼーションと呼ばれる社会の変化が起こります。

 

自動車の普及により、自動車専用の道路が作られ、往来の真ん中は人ではなく、車が独占するようになり、自動車の行き来がモノやサービス、お金の流れを加速させ、人々のライフスタイルを変えました。

 

自動車産業が登場し、多くの雇用や巨大企業が生まれ、馬車や人力車を曳く職業は、特殊なサービスをのぞき、ほぼ姿を消しました。同時に自動車は、生命の安全を脅かすに至り、自動車関連の法規が整備され、最新版の自動車六法は、3,200ページの厚みを持つに至ります。

 

戦後の日本を見ても、家事労働を劇的に簡略化した家電の登場や、大量生産・大量消費を実現させたあらゆる技術など、枚挙にいとまがありません。

 

ITに戻って言及すれば、音楽の分野で起こった変化はどうでしょう。

 

インターネットやコンピュータが個人の道具として世間に広がると、楽曲はCDではなくデータで売り買いされ、データを販売するプラットフォームがマーケットを握るようになりました。さらに一般の人々は、既存の楽曲を二次利用した作品をインターネットで発表するようにもなり、著作権をめぐる新たなルールの整備が叫ばれました。

 

そうした変化の中、多くの人々が、レコードやCD、カセットテープの時代よりも気軽に、大量にあらゆる楽曲を楽しむようになりました。ITが、音楽の売り方を変え、楽しみ方や作り方にも変化をもたらしました。その結果、カセットテープやCDの再生機器のメーカーなど、柱となるビジネスを失った企業もあるでしょう。

 


社会に浸透を果たした技術がもたらす変化のスピード

 

自動車の場合、蒸気自動車の発明からフォードによる大量生産まで、およそ140年かかりましたが、そこからモータリゼーションと呼ばれる社会変化を引き起こすまでは、10年程度でした。技術が社会に広く浸透する術を持つと、そこからはじまる変化はあっという間です。

 

インターネットの登場は1960年代で、商用利用のはじまりを経て、Windows95とともに一般の利用が急速に広がり出したのは1990年代後半。ここまでで概ね30年。AppleがiTunes Music Storeで楽曲販売を展開し始めたのが2000年代半ばなので、やはり10年程度。

 

いずれも技術が生まれてから一般に浸透するまでに、長めの期間がかかっていますが、そこから先の社会変化は急激です。

 

有史以来、あらゆる技術が社会を発展させてきました。ITもその中のひとつに過ぎません。これを拒むのは、社会が発展してきた歴史への挑戦でもあり、よほどの思想がない限り、現実的ではないでしょう。

 


人のつながりとお金の流れを変えたシェアリングエコノミー

 

シェアリングエコノミーは、CtoCという領域を切り開きました。Uberはタクシー業界、AirBnBはホテル・旅館業界への挑戦とみなされています。日本国内においては、どちらも規制産業であるため、違法性が指摘されています。

 

コミュニケーションツールであったSNSは、コンテンツ販売のプラットフォームとしてビジネス展開を図ってきたのは、日本でもガラケーのビジネスとして、mixi、モバゲー、GREEなどで2000年代後半から経験していますが、2010年代中盤になり、タクシーや旅行など特定の分野に特化したCtoCのサービスを生むに至ったわけです。

 

クルマや観光をテーマにしたアイデアソンを行うと、クルマのシェアや民泊のアイデアは、これまでもよく見かけました。アイデアとしては“定番”と言ってよいでしょうし、システムを組むにも、技術的に特別な困難はなさそうです。

 

アイデアは実現させてこそ価値がある(=実現させないと無価値)というのは確かにそのとおりで、国内でもよく出るアイデアを実装して、展開を仕掛けてきたのは、インターネットの母国、アメリカのスタートアップ企業だったというわけです。

 


自制か、禁止か、促進か

 

新たな技術が社会へ浸透をはじめるとき、取るべき態度はどのようなものでしょうか。原子力のように、強く自制が叫ばれる技術もあります。ITなどは、もたらされる変化が速すぎることで、社会の混乱を懸念する声もあるでしょう。

 

ドローンなどもそうですが、どんな利便性や利益がもたらされるのかわからないまま、一部の人々の迷惑行為ばかりがクローズアップされ、とりあえず禁止するという風潮も生まれます。AirBnBでは、ヤミ民泊という指摘がなされ、事件化して報じられるケースも出てきました。

 

自動車でも似たような事例があります。19世紀後半のイギリスでは、馬車の運送業界や煤煙・騒音を嫌悪する住民らが、自動車を敵対視したことから、議会で「赤旗法」という法律を定められました。自動車は、赤い旗を持った歩行者に先導され、低速で運転することが義務付けられたそうです。

 

これによりイギリスは自動車産業の発展につまづき、欧州ではドイツやフランスの後塵を拝すことになります。

 

技術がもたらす変化を魅力と捉えるか、脅威と捉えるか。利便性とリスクをわかりやすく示す声や、その声に興味深く傾ける耳が、社会にどのくらいあるのか。ITベンチャーとICT利活用の狭間には、そうした社会の成熟度が横たわっているのかもしれません。

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